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HQとワーキングメモリ実践

 

 脳科学者・澤口俊之教授は、「人間らしく育てる、幸せになるように育てることこそ、幼児教育に必要なことだ」と述べています。また,澤口教授は、脳科学の観点から「人間らしく育てること、幸せになるように育てることは、『前頭前野』を育てることであり、脳が大きく発達する幼児期にこそ行われるべきである」と、著書(「幼児教育と脳」文春新書1999年)中で記されています。
 つまり人を人らしくさせている人間性の中心になっている脳の領域が前頭前野であり、その領域を積極的に使えるようにする場が、保育園や幼稚園なのです。日々子どもたちと接し、発達や成長と照らし合わせながら行ってきた保育と、独学で重ねていた脳の勉強内容が一致した瞬間でもありました。それから、澤口教授の著書でさらに勉強・研究を重ね、HQ(Humanity Quotient=人間性知能)を伸ばせるような活動や、瞬間的な脳の働き、ワーキングメモリを高めるカード教材(WMカード=ワーキングメモリカード)を考え、日常の保育に取り入れるようになりました。
 この活動を始めてから子どもたちは、どんどん変わっていきました。初めて目にするもの、手にするもの、あらゆるものに興味を示し、以前にも増して何事にも意欲的に関わろうとしはじめました。保育者の話を聞かなくてはならない、集中しなければならないときには、しっかり耳を傾けます。
 全年齢に共通していることですが、どうすれば楽しくHQを伸ばす活動につながるのかを考え、年齢の発達に合わせた日常生活・保育の中、遊びの中にひと工夫を加えてきた結果だと思います。
 たとえば、オムツが取れた1歳児は、芽生えた好奇心で自ら動き、満たすことが嬉しくて仕方がありません。その意欲を活かし、さらに楽しめるように、その活動の延長にボールをひとつ加えてあげるのです。足腰や手、指先の運動になるうえ、動く物を追いかけることで、目と体や手との協応にもつながります。ボールがつかめる子どもたちは、とても嬉しそうな表情を浮かべます。そこで保育者は、「上手だね」と笑顔で大げさなくらいに褒めます。子どもたちは褒められた嬉しさにますます積極的になります。やりたいという好奇心、褒められて嬉しいという喜びによって、HQが無理なく高まっていくのです。
 2歳児クラスの中頃までは、直接ワーキングメモリをトレーニングする活動はほとんど行いませんが、しっかりとHQが育ってきていますので、3歳児クラスに上がると、ワーキングメモリを使うカード教材、学問的な内容にも積極的に取り組むことができます。ワーキングメモリを使う活動でますますHQが高まり、体操や絵画、音楽、自然観察などの活動にも積極的に取り組みます。自分が知りたい、やりたい、楽しみたいと思うことがたくさんできるのですから、自然と集中して静かになります。
 このように30年間子どもたちと接しながら、脳科学について勉強し、子どもたちは何を楽しいと感じ、何をすることが子どもたちの脳や体の発達に適応した保育・幼児教育なのかわかりました。